satosakayaの感想

感想は恐らく間食のような存在

『ストロベリー・フィールズをもう一度』 感想

 全三巻を読みました。作者の木野咲カズラ先生の他作品は『誰かこの状況を説明してください!』コミカライズ版を読んでいて、そちらの作品と同じく『ストロベリー・フィールズをもう一度』も丁寧な作画でした。ガールズラブは好きなんですけど商業作品はそこまで触れたことが無く新鮮な気持ちで読み進めていましたが、「この作品はずっと心に残り続けるだろうな」と思える素晴らしい作品でした。



 お話は主人公の晶ちゃんのもとに、未来の恋人(アモーレ)と名乗る純愛(ぴゅあ)ちゃんがやってくる所から展開していきます。最初は「ちょっとタイムリープ要素が入って後はほんわかしたお話なのかな?」という印象でした。しかし、三巻になるとかなりガチめのタイムリープ要素が加わってきます。正直タイムリープ系の時系列を考えていくのは苦手なので、あとがきで時系列を細かく書いてくれたのは助かりました。


 基本可愛らしい絵ですがシリアスなシーンでは怖いくらいに真面目な表情を描かれたりしていて、そこのギャップが飽きさせないメリハリにもなっており好きでした。特に二巻九十ページの瑠璃と純愛ちゃんのコマは印象的です。二巻と言うと、十三話の『依存』と『好き』の区別についての話も印象に残っています。「『依存』するのって 『好き』の証拠でもあるんじゃない?」というクラスメイトの言葉。確かにそうだな~と気付かされました。この二つの感情って紙一重なんですよね。相手にある程度の『好き』の感情がなければ『依存』なんてしない。晶ちゃんが純愛ちゃんへ『依存』しているのは『好き』の証拠だったのだ……と、ゆっくり気持ちの変化の流れを描写してくれたのがすごく良かったです。


 最終巻である三巻の話に移ります。この物語の全ての発端とも呼べる菫さん、純愛ちゃんの言葉を借りると『欲張り』だなと感じました。菫さんは過去に戻れる特別な力を持っていましたが逆に言えば過去に戻れる力を持っていた“だけ”で、それ以外は他の人と変わらない人間にしか過ぎないのです。なのに彼女は、関わる他の人達をみんな良い方向へ持っていけるのではと勘違いしている時があったように思います。そう思ったからこそ十七話で純愛ちゃんが『貴方は欲張りですわ!』とびしっと言い放ってくれたのはすっきりしました。後に続いた『わたくしは 何が起ころうと 晶さんだけを選びます』『たとえそれで 他の誰かを不幸にしても…です』『誰かを愛することは その人の幸せをいちばんに選ぶ覚悟を決める事』『…わたくしは そう思います』の言葉もとても好きです。一番好きな言葉かもしれない。純愛ちゃんはほんわかしたお嬢様という一面だけでなく、覚悟を決める所はきっぱり覚悟を決める潔い一面があるのも大きな魅力ですね。


 十九話と二十話では最初(純愛ちゃんがタイムリープする前)の晶ちゃんと純愛ちゃんの出逢いが明かされました。いや……晶ちゃんの人生辛くないですか? まさか事故で下半身不随になってしまっていたとは……それでも掴んだ夢も、晶ちゃんの努力ではどうしようもない部分により消えかかっていて辛い。純愛ちゃんが居てくれたことが救いではありますが……。最終的に晶ちゃんは五体満足で終わってそれは本当に良かったんですけれど、最初の晶ちゃんは一体どうなったのでしょうか。あの未来ごと無かったことになったのでしょうか。タイムリープものはそこら辺がまだ理解が難しくてよく分からない……。


 二十一話ではタイトルが『ストロベリー・フィールズ(永遠の愛)をもう一度』という意味だと分かりました。ストロベリー・フィールズの花言葉からきていたんですね。晶ちゃん視点では「諦めていた『ストロベリー・フィールズをもう一度』」、純愛ちゃん視点では「高校時代に戻って『ストロベリー・フィールズをもう一度』」という感じなのかな。二人の物語なのでどちらにも当てはまるようなタイトルなのが素敵でした。

 一番満足度が高かったのは結婚する所まで描いてくれた点です。同性の恋愛作品って結婚する所まではあまり描かないイメージが個人的にはあったので、すごく嬉しかったですね。


 余談ですが奥付で『ストロベリー・フィールズをもう一度』と『誰かこの状況を説明してください!』は同じ時期に連載されていたんだなと気付きました。二作同時連載って大変だなあ……。